SOCIETY

Text:稲田 ズイキ
Photo:小島 和人

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PROIFILE

ノーマン・イングランド
カリフォルニア生まれのNY育ち。80年代に世界で二番目の『ゾンビ』ウェブサイトを立ち上げた生粋のゾンビ研究者。90年代よりUSA『ファンゴリア』ライターとして日本の映画現場を多数レポート。日本来日後は『映画秘宝』で「グラインドハウスUSA」を連載。ゾンビ関係ムック等執筆監修多数。19年『ゾンビ究極読本』(洋泉社)監修。字幕翻訳者としての仕事も多数。
岡本 健
近畿大学 総合社会学部 准教授。1983年生まれ。北海道大学大学院 国際広報メディア・観光学院 観光創造専攻でアニメ聖地巡礼について研究をして観光学の博士号を取得。その後、大学教員をやりながらゾンビ研究を進め、『ゾンビ学』(人文書院)を出版。その他の著作に『巡礼ビジネス』(KADOKAWA)などがある。
稲田 ズイキ
僧侶。1992年京都のお寺生まれで副住職だけど、寺に定住せず煩悩タップリな企画をやる煩悩クリエイターとして活動中。コラム連載など、文筆業のかたわら、お寺ミュージカル映画祭「テ・ラ・ランド」や失恋浄化バー「失恋供養」などリアルイベントを企画。フリースタイルな僧侶たちWeb編集長。 https://twitter.com/andymizuki
SOCIETY

ゾンビ映画で学ぶ日用品サバイバル術

ゾンビ映画で描かれるのは、危険と隣り合わせのサバイバル生活。登場人物はとっさの判断で身近なものを使い、防御手段を講じていく。もしかしたらゾンビ映画には突然の危険から身を守る知恵が眠っているのかもしれない。今回はゾンビ専門家2名とともに、ゾンビという危険から仮設的に対処していく方法を話し合っていく。

Text:稲田 ズイキ
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ノーマン・イングランド
カリフォルニア生まれのNY育ち。80年代に世界で二番目の『ゾンビ』ウェブサイトを立ち上げた生粋のゾンビ研究者。90年代よりUSA『ファンゴリア』ライターとして日本の映画現場を多数レポート。日本来日後は『映画秘宝』で「グラインドハウスUSA」を連載。ゾンビ関係ムック等執筆監修多数。19年『ゾンビ究極読本』(洋泉社)監修。字幕翻訳者としての仕事も多数。
岡本 健
近畿大学 総合社会学部 准教授。1983年生まれ。北海道大学大学院 国際広報メディア・観光学院 観光創造専攻でアニメ聖地巡礼について研究をして観光学の博士号を取得。その後、大学教員をやりながらゾンビ研究を進め、『ゾンビ学』(人文書院)を出版。その他の著作に『巡礼ビジネス』(KADOKAWA)などがある。
稲田 ズイキ
僧侶。1992年京都のお寺生まれで副住職だけど、寺に定住せず煩悩タップリな企画をやる煩悩クリエイターとして活動中。コラム連載など、文筆業のかたわら、お寺ミュージカル映画祭「テ・ラ・ランド」や失恋浄化バー「失恋供養」などリアルイベントを企画。フリースタイルな僧侶たちWeb編集長。 https://twitter.com/andymizuki

もし突然、 ”ゾンビ”が現れたなら……?

僕の場合、頭が真っ白になってギャーギャー騒いでいる間に、ゾンビに噛まれてしまう未来しか見えません。去年10月、大型台風が東京に接近したとき、窓に養生テープをどう貼っていいかも分からず、「ヤバい死ぬ」とシンプルに死を覚悟したのを思い出しました。
それに比べて、ゾンビ映画に出てくる登場人物は、切羽詰まった状況の中、工夫を凝らして身を守っていて「よくもまぁこんな即時に機転が効くなぁ」と毎回感心します。
それはつまり視点を変えてみると、ゾンビ映画は「突然の危険から身を守るための教科書」として再評価できるのではないでしょうか? 危機的な状況の中、その場にあるもので武器や盾、ひいては砦を作り上げる。そんな彼らのDIY精神から学べることはたくさんあるのでは?
なぜかナビゲーターはわたくし、僧侶です。(一番右)
そこで、今回はゾンビのプロ2名に集まっていただき「このゾンビ映画の防御方法がすごい!」「自分ならこうやってゾンビから身を守る!」といったテーマで話してもらいました。ゾンビ映画の名作のあのシーンから、思わぬ「日常の防御方法」のヒントを探しにいきます。

兎にも角にも、まず「バリケード」を作れ

稲田:これまでたくさんのゾンビ映画を鑑賞されてきたお二人に伺いたいのですが、もし現実にゾンビが現れたとします。まず、お二人ならどうしますか? 
なにやら「腕がなりますね」と言いたげなお二人。
岡本:状況にもよりますが、まずは出来るだけ戦闘を避けた方がいいですね。相手がどういう性質を持ったゾンビなのか、ゾンビ化がどこまで世界的に広がってるかもわからないので、とりあえず安全な場所を確保するのが先決だと思います。
 
稲田:さすが、ゾンビ映画を研究しているだけあって、めちゃくちゃ冷静ですね。
 
ノーマン:立てこもる場所が決まったら、まずはゾンビが侵入してこないように、「バリケード」だね。
 
稲田:ば、バリケードって、そんなのどうやって用意するんですか?
当然のようにテーブルをひっくり返すお二人
ノーマン:こうやって、テーブルをひっくり返して、玄関や窓を覆う形で釘を打ち込むのが基本。どんなゾンビ映画でも、バリケードを作る作業は必ずといっていいほど出てきます。家にあるあらゆるものを使って、ゾンビの侵入を防ぐのがポイント。
『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』(1968) © Image Ten
稲田:そもそもなんですけど、こんなゾンビとかだったら、ノロノロ歩いていて弱そうじゃないですか? そこまでする必要はあるんですか?
 
ノーマン:いい質問だね。僕はこのスローゾンビが大好き(笑)。 最近の映画は速く動くゾンビが出ることが多いんだけど、ロメロ監督の作品に出てくるゾンビは全部ゆっくり歩く。だから、走って逃げようと思えば、逃げられるのかもしれない。しかしその攻防の中で僕らは絶対に寝ないといけないし、トイレに行かないといけないし、敵の数や範囲も見えない中で、最低限の生活をどこかで確保しないといけない。そんな隙間に気がつくと無言で背後に迫られている……それがロメロ監督のゾンビ作品の素敵なところ。
 
稲田:なるほど、ゾンビ対策は長期戦になるから、その場しのぎは禁物ということですかね。
『バタリアン』(1985) © Cinema 84 / MGM
岡本:あと、一人一人は弱そうなんですけど、ゾンビは人間の肉体であることが大きいですね。普段あまり意識しませんが、集団で来られるとかなりの重みになりますから。
(C) The MKR Group Inc ゾンビ
稲田:たしかに、人間の集団が一つの家屋に押し寄せると考えると、恐ろしいです。まさに災害に近いものを感じる……。 
いざという時のために、身近なものでバリケードをつくるシミュレーションをしたくなってきました。
岡本:バリケードはテーブル以外にも色々と代用ができます。例えば、『がっこうぐらし』っていう学校が舞台のゾンビアニメでは、机を積んで紐で絞ってバリケードにしていましたね。
『鳥』(1963) © Universal Pictures
ノーマン:ゾンビ映画ではないけど、ヒッチコックの『鳥』という映画では、大きな鏡台を玄関の入り口に置いて侵入を防いでいたね。最近は軽くて移動させやすい安価な家具も多いけれど、いざという時のために重厚な良い家具を買っておくと、ゾンビ対策に使えるかもね(笑)。

一人一人は弱そうなんですけど、ゾンビは人間の肉体であることが大きいですね。普段あまり意識しませんが、集団で来られるとかなりの重みになりますから

岡本

備えておきたい 最低限のDIY精神とキット

稲田:なるほど。バリケードが基本だということはわかりました。でも、そもそもなのですが、トンカチと釘を常備している家庭は少ないかも……。
 
ノーマン:そうなの? アメリカの一般家庭では工具は絶対にあリます。元々アメリカの文化は、ヨーロッパの人々が大陸に渡って開拓をしたのが始まり。そのせいかアメリカ人の趣味はDIYなどものづくり系が多い。日本の場合は職人の文化だから、各家庭には道具を置いていないことが多いのかな。
 
岡本:ゾンビ作品は「立てこもる」か「逃げる」かの大きく2つに別れるんですが、たしかに言われてみれば、邦画のゾンビ作品は家屋に立てこもる判断をせず、逃げ回っていることが多いかもしれないですね。
 
稲田:「日本の家庭には工具がない」という話から分析が進みすぎでは……。
岡本:でも、注意しないといけないのは、危機的な状況だと、これまで当然としてあった「社会」も崩壊してしまうということです。ゾンビ映画では必ず生存者ごとに分断が起こり、他のグループと協力するかどうかの判断が迫られるケースが多いのですが、大抵の場合、協力すると騙されます(笑) それくらい皆が生きるのに必死だということでしょう。少なくとも「自分の命は自分で守る」を基本原則としたほうがいいかもしれないですね。
 
稲田:自分の命は自分で守れるように。最低限のDIY精神とDIYキットは普段から備えておいたほうがいいということですね。

一番のオススメは、100均やホームセンターの隣に住むこと!

ノーマン

長期戦を戦い抜くために 必要な「最低限の文化」

稲田:では、ゾンビから身を守る拠点を作ったとします。その後はどうしたらいいのでしょうか?
戦います?
 
岡本:冬になるまで待つのがいいかもしれません。ゾンビは基本的に死体だから、寒さで身体が硬直して動けなくなることが多いです。
ノーマン:そう、だから寒い地域に逃げるのが良い。アメリカだったらカナダ、日本だったら北海道…とかね。ただ、長期的に家に閉じこもっていたり、誰とも話をせずに一人でいたりすると、メンタルが持ちません。そこで、ゾンビ映画でポイントになってくるのが、いかに「ライフスタイル」を作るかという点。
 
稲田:ライフスタイル? 意外です……!
 
『アイ・アム・レジェンド』(2007) © Warner Bros. Entertainment Inc.
ノーマン:『アイ・アム・レジェンド』という作品では、地球に人間が主人公たった一人になってしまいました。そんな極限状態で彼が行ったのは、レンタルビデオショップや街路にマネキンを置くことでした。
『地球最後の男オメガマン』(1971)© Warner Bros. Entertainment Inc.
ノーマン:『地球最後の男オメガマン』も同じ原作の小説を元にした映画なのですが、一人二役でチェスをしたり、あえて貴族のような服装を着たりする。長期戦になるので、ライフスタイルは絶対にギブアップしちゃダメなんです。
 
稲田:なるほど、非日常な世界だからこそ、日常を作ることに労力を惜しまないということですね。最低限の文化を手放さない、同じことは人生でも言えそう。
人間的な生活のためにトランプなどの娯楽も大事
岡本:ゾンビ化した世界では、情報が遮断され、インフラもストップしてしまいます。なので、ボードゲームやトランプなど電気を使わないエンタメが生命線になってきますね。
『地球最後の男』 (1964) © Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc.
ゴミ袋を使って仮設のトイレをつくる
ノーマン:あとは、トイレなどの最低限の生活基盤も仮設的に作れます。溜まった排便は肥料にして家庭菜園に活かしたりもできますね。
岡本:外に出ると、こういう建設用の足場があったりしますよね。これに布を張ればゾンビから身を隠すためのカモフラージュ用の幕になったりします。
 
稲田:よくそんな泉のようにわんさかとアイデアが……!

長期戦になるので、ライフスタイルは絶対にギブアップしちゃダメ

ノーマン

その場にあるもの全てが 身を守る武器になる

岡本:ずっと籠城していても、食料は底を尽きるし、気持ちも滅入ってきます。なので、ゾンビが弱くなってきたタイミングで外に出るのはアリな展開です。そういう意味で日本は湿度が高いので、ゾンビも早く腐るから好条件です。まぁ、そもそも火葬文化なので死体はほとんどないのですが(笑)
 
稲田:やっと戦闘が始まるわけですね!ゾンビとの戦闘はどうしたらいいんですか?
 
岡本:唯一のルールとして噛まれたらゲームオーバーなので、出来るだけ遠距離攻撃がいいですね。とはいっても、日本は銃社会じゃないから、なかなか遠距離武器がないのでここでクリエイティビティが問われます。
 
ノーマン:日本の場合、弓道がいいと思うよ。弓道ができる人がいればかなり強いよ。
 
稲田:弓道できる人なんてそうそういませんよ!っていうか一般家庭に弓はありません!
 
ノーマン:そうなの? 例えば、これはかなりコメディだけど『ショーン・オブ・ザ・デッド』という作品では、レコードをゾンビに投げて攻撃していたね。これはいいレコードだから投げたくないって躊躇したり、お気に入りのシーン(笑)
『ショーン・オブ・ザ・デッド』(2004年)© WT Venture / Universal Studios
岡本:最近僕がハマってるマンガ『ゾンビになるまでにしたい100のこと』では、雑誌を地面に引いてゾンビを滑らせる作戦をとっていました。ゾンビは足元が狙い目です。
 
稲田:ゾンビって足元おぼつかないんですか?(笑)
ノーマン:中距離レンジの武器としては、絶対にこれがおすすめです。アメリカにはないけど、日本の家庭にはほとんど「物干し竿」あるでしょ? 僕ならこの先端にナイフをガムテープで巻きつけてオリジナルのゾンビキラーを作るね。
岡本:ガムテープは応用が効きます。ゾンビの口を閉じることもできるし、『ワールド・ウォーZ』という映画では、雑誌を腕に巻きつけて、噛まれないように防御していました。ガムテープぐるぐる巻きでも代用できそうです。ガムテープやひもは色々なことに使えますので、なんぼあっても良いですね。
 
稲田:ガムテープは矛にも盾にもなる……緊急事態にはとりあえず家中のガムテープをかき集めます。
 
岡本:あとは集団で押し寄せてくることが多いので、点ではなく面で攻撃できるものがベストです。例えば、グラウンドをならすためのトンボとかは、ゾンビを押し返すのに使えると思います。
ノーマン:日本の場合、畳がいいよ!ひっくり返すとかなり強い壁になります!
 
稲田:た、畳ですか!その発想はありませんでした!

ゾンビ映画を通して「危機」に備える

危機的な状況での立ち回り、とっさの判断で身の回りのものをいかに応用していくかなど、普段の生活からは見えてこない視点がお二人の会話から伺えました(少々二人のゾンビ熱が加速してしまいましたが)。
  • 最低限のDIY精神とDIYキットは備えておく
  • いざという時のために丈夫な家具を買っておく
  • ホームセンターか100均の周りに住む
  • ガムテープはなんぼあってもいい
  • 危機的状況でも落ち着いて人間らしいライフスタイルを作りあげる
これらについてはゾンビに限らず、災害や突発的な危険にも応用できるエッセンスです。
 
なんせ日本は災害が絶えない国。危機がいつ突発的に発生するかは、誰にも予想はできません。物干し竿を見たときに「これはいざという時のために使えるかもしれないな……」、テーブルを買うときに「これは足が外れないからバリケードにできないな……」など、いざという時が本当に来るかは誰にもわかりませんが、備えあれば憂いなし。
 
日頃からゾンビ映画を通して、最低限のDIY精神とシミュレーションする習慣を身に着けることは、自分の命を守る第一歩につながるのではないでしょうか。ゾンビ映画は、一番身近な「突然の危険から身を守るための教科書」といえるかもしれません。
 
メインビジュアル:© Cinema 84_MGM バタリアン
『POP UP SOCIETY』とは 『POP UP SOCIETY』は、一般の方に業界への興味を持ってもらい、中長期的に建設仮設業界の若手人材不足に貢献することを目指し、ASNOVAが2020年3月から2022年3月まで運営してきた不定期発行のマガジンです。 仮設(カセツ)という切り口で、国内外のユニークで実験的な取組みを、人物・企業へのインタビュー、体験レポートなどを通じて紹介します。

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