「外国人技能実習生」と 喋ってみたい!
こんにちは!社領エミです。
皆さん、「外国人技能実習生」 ってご存知ですか?
ざっくり言うと、外国人技能実習生とは「日本の企業などで技術・技能を身につけるために日本で働く外国人」のこと。近年、だんだんと人数が増加しているそうで……2018年6月末時点では、なんと約28万人 が日本国内で働いているらしいのです。
28万人といえば、およそ東京都の目黒区と同じ人口! ものすごい数です。そんな数の技能実習生が、日本国内にわんさかいる……はず、なのに。
みなさん、技能実習生の方と喋ったことはありますか?
私は喋ったことがありません……!
喋ってみた〜〜〜い!
昨今、ネットやテレビのニュースなどでも目にする「外国人技能実習生」。画面越しにしか見たことのない人々ですが、実際はどんな風に働いて、どんな生活をしているのでしょう?
敷地内には、足場の材料となる「足場材」がたくさん。そう、KRS株式会社は、工事現場などで使用される「足場」の組み立てを行う会社 なのです。
私もこの取材で初めて知ったのですが、ビルや住宅の工事現場などで見られる足場って、工事をする業者さんが組み立てるわけではないそう! KRSさんのような、足場組立を専門とする企業が、安全に工事ができるようにしっかりとした足場を組み上げているんだとか。
今回お話を伺うのは、KRSさんに6名いる技能実習生のうち2人、ベトナムからやってきたトゥアン さんとトゥー さん。
トゥアンさん(左)とトゥーさん(右)
おふたりとも、2018年の6月からこの会社で働きはじめて、もうすぐ2年になるそう。生活のこと、仕事のこと、さまざまな話を聞いていきたいと思います!
ベトナムからやってきた 技能実習生、トゥアンさんと トゥーさん
こんにちは! 今日はよろしくお願いします。ふたりはおいくつですか?
若いなぁ! 日本での生活には、だいぶ慣れましたか?
トゥーさん:ムフフ……慣れました!
トゥアンさん:うん。フフフフ。
照れ笑いがすごい。お仕事は順調ですか?
面白いんですか! 例えば、どんなことが?
うん、『例えば』。
トゥーさん:『たとえば』。
トゥアンさん:……ちょっと、言葉が。
た、 「例えば」が通じない!
おふたりとも、私の予想よりも日本語が堪能ではないようでした。なぜか技能実習生は日本語がペラペラだと思い込んでいた私……。ひとまず難しい話は置いておいて、簡単な言葉で日常の話をゆっくり聞いてみることに。
おふたりは日本に来る前、ベトナムで何をしていたんですか?
トゥアンさん:勉強、学校です。19歳のとき日本に来ました。
あ、そうか。トゥアンさんはまだ21歳だから、高校卒業後にそのまま日本に来た感じですね。トゥーさんは?
軍隊!?
トゥーさん:はい。あと、服の工場。工場、夏暑い、わたしムリ。
なるほど。足場と全然関係のない仕事をしてたんだ。
ちなみに、「ベトナムの若い男性のうち、どのくらいが海外で働くか」という質問をして、筆談で答えてもらった結果がこちら。英語が稚拙! おふたりの体感では、若い男性のおよそ「10%〜20%」が海外に働きに出ているみたいです。けっこう多いなぁ。
日本に来たのは、今回が初めてですか?
そうなんですね! どうして技能実習生になったんですか?
トゥアンさん:家族のためですね。
トゥーさん:お金送ります。
なるほど。お金は、いい感じに送れてますか?
立派だなぁ。日本に来て、家族は心配してないですか?
トゥアンさん:もういま、大丈夫です。
トゥーさん:電話……Facebook。
Facebookで通話してるんですね。便利ですよねぇ。
トゥーさん:便利!
トゥアンさん:あと1年、3年で終わります。
あ、実習期間は3年で終わるのか。じゃあ、あと1年働いたらベトナムに帰るわけですね。
管理団体にもよりますが、技能実習生は基本的に3年間の在留期間が認められています。なので、おふたりがここで働くのは2021年の5月まで。
ちなみに、トゥーさんには5年間付き合っている彼女がいて、現在はベトナムと日本で遠距離恋愛中。日本に一緒に行かないかと彼女を誘ったところ、「日本は寒いから無理」と断られたそうで……。「寂しくないの?」と聞くと、「チャレンジチャレンジ、大丈夫大丈夫」とのことでした。
「日本人、いいです」 食べることが大好きな ふたりの生活
日本では、どんなところに住んでるんですか?
トゥーさん:アパートです。3人一緒です。
おふたりは、職場から自転車で15分くらいの距離にあるアパートで、同じ時期に技能実習生としてやってきた方と3人で暮らしているとのこと。
休みの日は何をするんですか?
買い物! 何買うんですか? 洋服とか?
食べ物かぁ。
おお、すごい! やっぱり、入れるのはベトナム料理?
「Thịt kho」は料理の名前? よく作るんですか?
トゥアンさん:はい。
あとで調べてみたところ、「Thịt」は肉、「kho」は煮込むという意味で、要するに豚肉を煮込んだ料理のようでした。
ほかにも、休みの日はスマホでサッカー観戦をしたり、映画を観たりしているとのこと。KRSさんには、今年からさらに3名のベトナム人技能実習生が入社したらしく、その方たちとみんなで夕ご飯を食べたりもするんだとか。
日本で暮らしてみて、どうですか? 困ったこととかありませんか?
え! 困ったこと、まったくないですか? 初めての日本で?
トゥアンさん:いま大丈夫です。
トゥーさん:全部いいです、全部。
トゥアンさん:日本人、いいです。
ほ、ほんとですか? ありがとうございます……。ちなみに、日本で生活してて「一番幸せなとき」はいつですか?
トゥアンさん:あー、食べます。
トゥーさん:ラーメン!
ラーメン?
トゥアンさん:お店で。
トゥーさん:仕事あと。醤油ラーメンです。
いいなぁ。仕事終わりの醤油ラーメンって、一番おいしいやつですね!
足場作りは「暑い、 寒い、ちょっと大変」
おふたりは、インタビューが始まるまで足場材に色を塗る作業をしていたそう。足場会社は、ほかの会社のものと見分けがつくよう会社ごとに別々の色を資材に塗っているそうで、この深いブルーはKRSさんの色なんだとか。
足場の材料をまじまじと見るのはこれが初めてなんですが、思ったより大きくて、ごつくて、「鉄!」って感じの存在感がすごい。めちゃくちゃ重そう!
こんなに重そうな材料を組み上げて、人が安全に歩き回れる足場を作るのか……! 大変だなー!
面白いんですね! 仕事する中で、一番面白いことってなんですか?
あ、高く組み上げるのが面白いってこと?
へえー。足場って、どのくらいの高さまで組めるもんなんですか?
にじゅう……、えー!?
こ、このずっしりした鉄の棒を、マンション10階分近く組み上げるのか……! そういえば、ビルなんかだとすごい高さまで足場を作っているような。どこかで目にしたことがあるはずなのに、それを作る工程も、作る人のことも、私はまったく想像したことがありませんでした。
実際に、仕事で使う材料をかついで見せてくれました。最初は5本持つのが限界だったけど、今は8本持てるようになったんだとか。この資材は1本4~5kgなので、片方の肩に細めのギャルくらいの重さを乗せてるってことか……すごいなー!
高いところに登るし、重いものを運ぶし、危険なこともありそうですね。
トゥーさん:はい。危ない。難しい。
トゥアンさん:重い。暑い、寒い、ちょっと大変。
そっか、全部屋外での作業か! 暑い日も寒い日も、雨の日にも足場を組むって、すごいなぁ。
普段は、ほかの職人さんと2人組になって現場を回ることが多いそう。一軒家くらいの大きさの現場なら、2人でやって半日ほどで足場が完成するんだとか。めちゃくちゃ早い!
逆に、ビルや工場などの大きい現場なら、10人以上で出向いて何日もかけて作ることもあるそう。トゥーさんとトゥアンさんは、「大きい物件の方が、ガンガン組めて面白くて好き」らしいです。
いつものふたりは どんな感じ? 仲良しの先輩に話を聞こう
ここで、1人の職人さんが現場から帰ってきました。
カナイさん。KRS株式会社に2年務める足場職人さんです。
トゥーさんやトゥアンさんとよく現場に行くらしいカナイさん。おふたりの普段の様子について、少し聞いてみることに。
カナイさん:僕はもともと、ふたりが入社する前にこの会社で働いていたんです。一旦辞めて、戻ってきたらふたりがいて。いま、4ヶ月くらい一緒に働いてます。
そうなんですね。海外の方と働くのは、これが初めてですか?
カナイさん:そうですね。業界にはベトナム人技能実習生の方は多いんですけど、僕は一緒に働くのは初めてです。
おふたりは、普段どういう感じで働いていますか?
カナイさん:トゥーさんもトゥアンさんも、本当にまじめですごく助かってます! 足場を組み立てるとき、次に何が必要かとかが僕より全然わかってる感じで。逆に、僕が教えられてるって感じです。
すごい!
トゥーさん:えー、違う違う!
カナイさん:いやいや、ほんとだよ! 助かってます。たまに、ちょっと小馬鹿にしてくるけど(笑)
トゥアンさん:してないよー(笑)。
なんか、めちゃくちゃ仲がよさそうですね。
カナイさん:友達のような関係です。ほんとにふたりとも、まじめでいい子です。
ベトナムに帰ったら、 足場の仕事は「しない」?
カナイさん、すごくいい方でしたね。
トゥーさん:はい。
トゥアンさん:カナイさん好き、優しい。
トゥーさん:仕事が優しい。怒らない。
会社の人は、みんな優しいですか?
トゥーさん:はい。社長優しい、社長好き。
トゥアンさん:……うーん……。
トゥアンさん、なんか思うところがありそうですね!
トゥアンさん:いま、いま大丈夫です。いま大丈夫、大丈夫。
トゥーさん:仕事しない、優しい。
仕事をしていない時は優しいってこと?
トゥアンさん:はい。
そうかぁ。やっぱり、危険な仕事だけに厳しくなるのかもしれないですね。大変だけど、今たくさん学んで、ベトナムでこの経験をいかせたらいいですね。
え? ……しない? 足場の仕事を?
そうなの!? 「技能実習生」なのに!?
トゥアンさん:ベトナムの足場、危険。
トゥーさん:日本の足場、安全です。
そ、そうですか……! 技能実習生って、技能を持ち帰るために学んでるんだと思ってたー!
おふたりによると、日本にやってきた技能実習生のうち、ベトナムに帰って同じ仕事をする方は多くないんだとか。
取材後、ベトナムに長く住んだ知り合いに聞いてみたところ、実はベトナムの国民の平均月収は約27,000円*ということが判明。 や、安い! 職業によって差はあるけれど、学歴がすごくいい人でも初任給は10万円程度。だから、技能実習生は賃金の高い日本へ「出稼ぎ目的」でやってくる傾向があるそうです。
(*2018年時点 ベトナム労働総連盟調べ)
ちなみに、トゥーさんとトゥアンさんは帰ってから何の仕事をするか「未定」とのことでした。
「日本に来てよかったと 思ってもらいたい」。 異国で頑張る 技能実習生の支え方って?
最後に気になるのが、「ふたりを雇った側の人」のこと。
ふたりはどうして雇われて、どのように仕事に慣れていったのだろう? ふたりを入社当初から知る、KRS株式会社の清野光郷社長の奥様、清野綾香さんにもお話を伺いました。
技能実習生を雇うことになったきっかけについて、教えてもらえますか?
清野さん:きっかけは、業界の慢性的な人手不足ですね。足場業界は日本人の若い人になかなか興味を持ってもらえてなくて。ほかの会社さんが実習生を受け入れているのも聞いていたので、「建設足場事業協同組合」さんにお願いして、実習生を受け入れることになりました。
どうやって面接したんでしょう? 書類審査とかですか?
清野さん:いえ、直接現地に行きました! あのふたりは、社長がベトナムに行って選んできた子たちです。
えー! ベトナムまで行って面接を!
清野さん:委託することもできるんですが、どうしても社長は「現地に行ってみて選ばないと駄目だ」って。家族と離れて日本に来て、危ないこともある仕事で、どれくらい頑張ってくれるか。そこは、日本人の子と同じように見極めたかったみたいです。
あのふたりはそうして選ばれて、KRSさんにやってきたんですね。
清野さん:はい。2018年の5月に日本に来て、まずは足場と日本語についてスクールで1ヶ月勉強してもらって。その間、こっちは実習生が住む家と家具などを揃えておいて、2018年の6月に入社に至りました。
家具まで企業が揃えるんですね。
清野さん:お布団、食器、棚まで、生活用品は全部揃えました。生活費は本人持ちですけどね。
最初はどんな感じでしたか? ふたりは初めての来日ですよね。
清野さん:やっぱり最初は大変そうでしたねぇ。今よりもっと言葉が通じなかったので、ずっとGoogle翻訳で会話をしてました。今はふたりとも表情豊かだけど、最初は笑顔も本当に少なかったんですよ。
そうなんだ……。
清野さん:さっきもちょっと話に出たと思うんですけど、人間関係のトラブルもあったんです。やっぱりこの仕事って、危険なことも伴うし、職人気質な方はどうしても指導が厳しくなってしまうから。
危険な中、言葉の通じない人に仕事を教えようと思うと、余裕もなくなってしまいますよね。
清野さん:そう、職人さんも一生懸命なんです。だから、最初はなるべくこまめにケアするようにしましたね。あんまりキツいことは言わないよう、職人さんたちに声かけをして。それでもどうしてもトラブルになったら、話を聞いて、相性の悪い先輩とは仕事の距離を置かせるようにしました。 最初は、慣れない環境でちゃんと暮らせているか、社長や職長が家を見に行ったりもしていましたね。あと、「何かあったら言うように」は入社当初から今までずっと伝えるようにしています。
KRSさんでは月に一度、安全協議会のあとに社員全員で食事に行くそう。技能実習生のみならず、社員みんなの「近況」や「不安に思っていること」などを知ることができる、大切な機会だそうです。
では、実際に働いてもらってどうでしたか?
清野さん:よかったです! すごく、すごくまじめな子たちだと思います。その辺の若い子よりも全然まじめですし、一生懸命で素直ですね。仕事もどんどん上達していて、あの子たちのおかげでまた次の実習生を迎え入れることも決まりました。
おお、すごい!
清野さん:あと、ふたりとも、かなりユーモアが出てきたように思います(笑)。言うことやること、いちいち面白いんですよ。
そうなんですね。今日もよく笑ってましたし、会社でリラックスできるようになったんでしょうね。
清野さん:と思います。日本語もすごく上手になりましたよ。うちは毎日日報を書いてもらってるんですけど、ほら、トゥアンさんの字、すごく上手でしょう!
「きょうは だいあんさん いっしょでした。
だいあんさん げんきでした。
たちあげ はやかった。」
職人さん全員が毎日書いている日報。技能実習生のものは全てひらがなで構成されており、ひらがな・カタカナの練習用紙もファイリングされています。いずれも技能実習生のために用意したものだそう。
ちなみに、ひらがな・カタカナ練習用紙は日本人の方でも文字が雑なら使うとのこと! 「適当にこなしていては、現場でもいい仕事ができない」という社長の教育方針だそうです。
すごいなぁ……。日本語練習用紙なんかも用意して、メンタルもしっかり丁寧にケアされてて。ものすごく、技能実習生にきちんと向き合って対応してらっしゃるんですね。
清野さん:不安な中、母国を離れてうちで頑張ってくれてるわけですから。日本に来て、KRSに来て、仕事をしてよかったと思ってもらえるのが、一番嬉しいな と思ってやってますね。
お話をお聞かせくださり、ありがとうございました! KRSさんの実習生への真摯な対応をお聞きすることができ、なんだか救われた気分になりました。
少なくとも、 KRSの技能実習生は 「大満足」だ
このインタビューの後日、私は改めてトゥアンさんとトゥーさんに質問状を送りました。
取材当日、実際に見聞きした分にはKRSさんはとてもいい会社でしたし、ふたりもとても満足していそうに感じました。しかし、多くの単語が通じず、うまく伝えられない・答えられないシーンもたくさんあったため、「ふたりが本当に満足しているのか」「言い残したことはないか」がどうしても気になってしまったのです。
なので、半ばドキドキしながらも、お金のこと・仕事のことなど率直に3つの質問をしました。翻訳家さんに依頼して、ふたりの母国語であるベトナム語で。その質問と回答がこちらです。
1.賃金に満足していますか?満足していればその用途を、そうでなければ不満点を教えてください。
2.今の職場で働く上で「よかったこと」と、もしあれば「気になるところ」を教えてください。
3.足場を組む仕事で、大切に考えていることは何ですか?
……ふたりは本当に満足して働いていて、仕事のことをグングン吸収しているのが目に見えて、なんだかめちゃくちゃ感動してしまったー!
画面越しだけではわからないことって、たくさんあります。
この記事での私と実習生ふたりの会話は、とてもスムーズなコミュニケーションに見えるかもしれません。しかし実際は、言い間違いや聞き間違い、勘違いの連続! ボディランゲージや筆談、Google翻訳などを使い、限られた時間で目一杯喋る、それはもう「必死」なやりとりでした。
この取材をする前も、私は外国人技能実習生に対してネガティブなイメージを持っていました。ニュースなどで、いつも暗い話題ばかりを目にしていたからです。……しかし、こんなにまじめな技能実習生と、彼らにきちんと向き合い、暖かく支えてくれる企業が存在したなんて!
実際に自分の身体で確かめて、見聞きすることができて、本当によかったと実感できたインタビュー取材でした。
社領エミでした!
『POP UP SOCIETY』とは
『POP UP SOCIETY』は、一般の方に業界への興味を持ってもらい、中長期的に建設仮設業界の若手人材不足に貢献することを目指し、ASNOVAが2020年3月から2022年3月まで運営してきた不定期発行のマガジンです。
仮設(カセツ)という切り口で、国内外のユニークで実験的な取組みを、人物・企業へのインタビュー、体験レポートなどを通じて紹介します。